由利本荘市の中門造り

みちのく「秋田の茅葺民家」の数は少なくなったとは言え、未だかなりの民家が残る。

R13秋田県院内から本荘までのR108号線沿いの鳥海町瀬目の道路沿いの茅葺きの中門造りは、約150年前に建てられ、この街道を行き来する多くの人達を見守ってきた。

この民家との、はじめての出逢いから数年の月日が経っていた。この春に47都道府県のかやぶき民家の模型を作り終えた事もあり、作品の総点検をはじめた。 秋田県のかやぶき模型は、重文の奈良家、草薙家を製作しており、地元の東北は何とか、人の住む生活感のある家を作ろうと思い直し、まずHPでお世話に成っている、佐藤五万米氏にメールにて、模型を作るに大き過ぎず、小さ過ぎず、彼の推薦の民家を紹介して欲しいと難問を尋ねてみた。 後日、返事が来てお気に入りの民家が多過ぎて、とても数軒には絞れないとの事だった。秋田のかやぶき民家を愛する彼としては、ごもっともな話である。

しかし、やはり知らぬ顔の出来ない、彼の優しい人柄だろう。後日、メールが届き、お気に入り写真と所在が添付されていた。ありがたい!早速、秋田は由利本荘に向かうが、どうにも紹介していただいた家は大きすぎるのと、改築が進みすぎて居る事を理由に製作を断念。 別の紹介の民家に向かう途中、五万米さんから電話が入り、誘導して貰いながら車を走らせるが、有る筈の地点に来ているのだが?誘導され現場に到着はしたが、すでに解体されて新築の家が建っていた。写真では私が模型を作る大きさには手頃な大きさに見えたが、残念だがこれが、かやぶきの民家を取り巻く環境だ!!

模型を作るには、家自体どんなに大きくても製作は可能だが、保管場所の問題がある。体育館の様な倉庫や展示場があるなら集落ごと作りたいが、残念ながら現実は、自分で改造した自宅屋根裏部屋管理では、おのずと模型の大きさも制限されてしまうのである。

思案した挙句、今回、秋田県の3作目の作品は由利本荘市鳥海の栗○家を製作することにした。栗○家は、家人の話しによると現在位置より山手の方に建っていたらしいが、幕末に火災により消失、現在の場所に建て直しをしたとの事。2007年7月の始めに訪問した。 奥さんと話が出来たので、撮影許可を頂き、運良くお話も伺えた。しかし、これで模型が作れる物ではない。数十枚からの写真を撮るが、より精密正確に作るには、何度か足を運ばざろう得ないのである。簡単の間取り図を書き、7月中旬のまたお邪魔した。話の中で中門の部分は直屋からの改造との話を聞かされた。戸障子も建築当初の雰囲気を色濃く残し、母屋の外観は建築当初に近い。 2度目の訪問時は、御主人ともお話が出来、自宅内部の詳細な話と、改造した部分等の話しを聞くことが出来た。最終確認のために、正確な三面図と間取り図を書いて8月中にお邪魔すると言うことで、由利本荘市鳥海を後にした。

指定民家ならば、資料も書物や報告書等で充分に用意出来るが、個人所有の持ち家は、見せて頂けるのは、精々茶の間までで、後の部分は大抵の場合筆談になる。大方の検討はつくが、確認の意味もあるし、その家の方達との会話を楽しみながら、ついつい長話になる。今回は、2度目の訪問だから、奥さんも前回の訪問時とは比べ物の成らないくらい打ち解けて話をしてくれた。

そんな話の中で、奥さんが屋根の修理に毎年、30~40万円もお金が掛かる事。毎年茅手さんが4人来て3~4日、屋根の手入れをしていくらしいが、屋根にお金が掛かって泣きたくなると真剣に話していた。お金が掛かる割には、差し茅の時、茅の袴「葉っぱ」を取らないで使うから、すぐに袴が腐ってしまう!昔の茅手はもっとしっかりした仕事をしたと話していた。 遥か昔の事だが、息子さんが、この集落では珍しく、高校に進学卒業した時に、役場から職員が来て、鳥海町の役場に入る様、薦められたが私が百姓をさせてしまった。息子に申し訳けない。自分が息子の人生をかえてしまったと話してくれたが、私には今だから、こんな時代だから、そんな風に思えるのかな~?すべて結果論じゃないですか?息子さんも、百姓が嫌なら、その時に嫌だと言っている事だろうし、そんなに自分を責めないで下さい。と話すのが精一杯だった。

羽後町にも化財に指定されている民家がある。そこは我が家とは違い、立派だから見ていけば良いと、教えてくれたが、即、文化財や指定民家は私が模型にして残さなくても、国や行政が手厚く保護していきますから、私はあまり興味が無いのですよ。それより栗○さんの家を、いかにして、リアルに忠実に模型にするか?ですよ!と話したら、こんなボロ家と言いながら、御夫婦でとても喜んでくれた。

民家散策も一期一会である。風習や習慣を聞きながらの語らい、1度2度と訪問する度に、気持ちが通じ合い仲良くなれる。3度目の訪問ではどんなお話が聞けるだろうか?お茶受けの大根の漬物!美味しかったですよ!早めに間取り図を仕上げて、またお邪魔します。

「余談だが」

五万米さんから、岩手のかやぶき愛好家の方が秋田に来て非礼の限りを尽くしていったと聞いた事があるが、自分も同じかやぶき民家を愛する同志として、他人の家を訪問する時は、挨拶は勿論、話を聞いたり手間を取らせる様な時には、車に常備している手土産を「気は心」として手渡す事にしている。 またお土産屋さんでなく、職人さんの工房を訪ね作業の手を止めて相手をしてくれた時も、自分が手の届く範囲の物を買うように心掛けている。わざわざ仕事の手を止めてお話してくれた時は、自給分位の商品を買う位の「心のおおらかさ」と言うか?「気配り」「心使い」を持ちたいものである。
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