彫刻師と彫刻業

先日、早朝に友人の運送屋の社長と弘前市三世寺の彫刻工房で創作活動をしている村上文憲さんを尋ねた。 工房と展示場には、作品達が所狭しと並び、日展出品作品も並んでいた。奥様は絵を趣味で書いている。村上さんの話だが、好きでこんな事をしているが、何とか食べてこれたから、良かったし、これからも、のんびり創作活動をしていきたいと話してくれた。

岩木山の懐に工房を構える、彼の時間がゆっくり流れるような穏やかな語り口、手間の事〔お金の事〕は、あまり気にしないで、好きな事をしたいと話してくれた。それでも、神社やお寺の改築や新築の時には、彫刻は中国の方が価格が安いから仕事が流出していると、このままでは、伝統産業は崩壊するとも話していた。

彫刻と言えば、私の場合、どうしても富山県井波の方を向いてしまう。しかし、その彫刻師の技術の高さは、認めるが、価格の高さにも驚かされる。

数年前の秋の事だが、私の家の菩提樹のお寺さんが、檀家さんに大きな金額の寄付を頂いたから、本堂の欄間を作りたい。井波の彫刻師を紹介してくれないか?とのお話があり、早速、井波の知り合いの彫刻師に電話をした。4枚で数百万はする仕事なので、デザインの打ち合わせや寸法を測りにお邪魔するとの事。了解!交通費はお寺さんの方が持つので、宜しくとの事。しかしその後、待てど暮らせど何の連絡も無い。年の瀬も近づいた頃に、彫刻師に電話を入れるが、歯に手術をしたから、今年はお邪魔出来ないとの事。

こちらは、首を長くして待っているのに、こちらから連絡を取るまで応答なし。連絡の手段はいくらでも有る。彫刻師の世界は、約束を破るのが当り前なのか?彼の仕事に惚れ込み、私の友人が、仏像彫刻を頼みに行き、前金を支払い作品をお願いした、今、取り掛かっている仕事が終わったら、すぐに取り掛かります。と言って、前金を受け取り、それから5~6年経つが未だに納品した様子は無い。納期の無い仕事は無い。あまりにもいい加減な彫師なので、今回の仕事はお寺さんの仕事なので見合わせる事にした。
私には、富山県高岡市出身の友人が居る。土日は我が家で晩酌をする、家族の様な友人です。 その彼に欄間を彫ってくれる彫刻師を紹介して貰うことにした。寸法を測り、欄間4枚の見積もりを頂いた。それが、それが、驚きの価格でした?デザイン代1枚40万×4枚=160万 彫刻代「欅」 1600×400×厚み60ミリ 200万×4枚=800万、トータル960万と言う高額な見積もりが出た。材料代はいくら高くみても2割だろう?この欄間の価格で坪30万の家なら32坪の家が建つ?これでは彫刻業だ?井波彫刻は未だにバブルなのかと思い、丁寧にお断りした事を思い出した。 そんな経験をしてから、今回、同じ彫刻師の村上さんとの出逢い。一日の手間を考えると、林檎の収穫のおばちゃんの日当と同じ位の6000円位だな~!でも飯が食えるからまだ良いわ~!」と笑った。屈託のない彼の生き方とお話に、真の津軽人を見た様な気がした。

富士山の頂上から日の丸を揚げる様な価格を出していれば、彫刻師の仕事も石材業の灯篭や石仏、狛犬などと同じ様に、その技術と共に海外に流出してして取り返しのつかない事になる。 現に技術の流出、仕事の流出は始まっている。海外流出は、自動車、半導体、弱電、印刷業等の製造業に続き、職人の世界にまで浸透してしまった。高価だから海外の工賃の安い地域に仕事が流れるのか?仕事量が少ないから、高価な価格にしてしまうのか?気がついた時には、どちらも駄目になる。

茨城県旧真壁町。石材業の盛んな地域だった。しかし、一部の業者が、中国などからの灯篭やお墓を現地生産して輸入して売りさばいた。石仏、墓石、灯篭を現地で作らせ輸入販売して大儲けをした。その結果、真壁から従来の地場産業の石を切り出し在来工法で灯篭や墓石を作っていた業者は衰退し、自分達も中国産の商品を扱うことになる。真壁の石材職人が精魂こめて作った物に比べれば、多少見劣りするが、外国産の価格は10分の1なのです。 これにより、石材商品の価格破壊が始まり、現在は売れ行きも止まり飽和状態だ。海上コンテナの輸送代が製品の値段より高いと聞いた事がある?確かに昔は、旧家や名家にしか灯篭なんぞ無かったが、今は、私の様な団地住まいの坪庭にも灯篭が入っている。 私もネットオークションで車のルーフキャリアを2000円で買い送料を2500円払った事がある〔笑〕しかし、送料が商品より高い商売てな物は長続するはずがない。

今年の津軽は雪が少なかったなぁ~!この位の冬なら、青森の冬も悪くは無いな~!と笑った。彫刻師の村上さん、また遊びに立ち寄らせて下さい。

早朝より、ほのぼのとした時間を有難う御座いました。弘前の彫刻家、村上さんとの出逢いに感謝します
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