茅葺く人

秋田で茅葺の民家を追いかけている、「秋田の茅葺民家」の五万米さんが、地元民放で放送になった、茅葺く人のDVDを送ってくれた。この所の週末のお休みは、刻字に嵌っている。我が家の菩提寺から位牌堂の刻字(ボランティア)も頼まれ、何とか盆までには完成させたいと、頑張っている最中、丁寧な手紙と共に郵送されたのである。

秋田も茅葺の民家は多いとはいえ、この所、解体やトタン屋根への移行が激しい。そんな中、ふる里の原風景である茅ぶきの屋根を守る、茅手さんと若い後継者の方達の奮闘記だった。本来、東北の茅屋根は丸葺きをしてからは、差し茅をしながら屋根の維持をするが、栃木県の宇都宮での事だが、差し茅を続けると茅の密度が大きくなり屋根が重くなり、戸障子の動きが悪くなると聞いた事がある。豪雪地帯で雪の重みで襖が動かなく成る事は、聞いたり見たりした事があるが茅の重みで襖や戸障子の動きが悪くなるとは、初耳だった。瓦屋根に比べて茅葺の屋根の小屋組みは比較的重厚感に欠けるような気もするが、豪雪地帯では冬場の積雪の重みに耐えられる様な小屋組みに成っているのも事実だ。

放送内容は、みちのく秋田の小京都、角館の指定民家の丸葺き「全葺き替え」の様子がメインだった。茅手暦50年以上のベテラン茅手さんと30そこそこの若手の茅手さんに秋田の茅手の技術を伝承しながらの仕事の様子が実に興味深かった。

茅屋根は「くずや」とも呼ばれ、その地域に豊富のあるものを使って屋根材としてきた。稲藁、ススキ、葦、小麦藁、等の素材を巧に使い小屋組みを作り、垂木は真竹の豊富な所では竹を使い、北東北等では、雑木を使う。固縛するのは、荒縄のみ。

しかし、各家で囲炉裏に火が入らなくなった現在、本当に荒縄の固縛材が最適なのだろうか?縄は囲炉裏の煙のヤニにより強度を増し、その煙が屋根材を通り浄化され、虫等の害虫の住み着くのを防いできたが、現代の生活様式に置き換えると作業の仕方が聊か矛盾点を感じる部分もあった。

茅手の仕事を大きく変えたのは、針金とトタンの出現ではないか?と感じる。縄は雨には非常に弱いし、棟仕舞い等は昔は板や杉皮、桧皮などを多く使ってきたが、今残る多くの茅葺きの民家はトタンと針金を多用している。文化財の保存もその生活様式の変化と共にそこに使う材料も少しずつ、変えていかないといけない様に感じた。

次世代を背負う、風間、佐藤氏の後継者の若手茅手さんには、秋田の茅手の技術をしっかり伝承した中で、その時代にあった屋根葺きを継承して欲しいと願っている。秋田に残る茅葺の民家は、秋田の茅葺職人が維持管理する事が良いことは、言うまでも無い。かわずの落書きや掲示板にも何度も書いたが、昨今、文化財や指定民家の屋根の葺き替えは、その多くが入札制度になり、他県から茅手さんが来て、工事を請負、仕事をする事が多い。地元に茅手さんが居ないなら仕方がないが、各県、地方により、屋根の葺き方や流儀、軒の刈り込み棟仕舞いなど千差万別なのである。他県から来た茅手さんが、葺き替え前の仕事を無視し自分達の流儀で屋根を仕上げたら民家を多く見てきた者や昔の資料を見てきた者には、似て非なる物となり、愛好家や探訪家にとって違和感のある屋根になってしまうのである。

文化財は、建築当初の形に戻す事が重要視される事も多いが、民家の場合、時代背景や家族構成により改築や改造が繰り返された経緯もあり、何処まで建築当初に戻すか?が良く論議される。建築当初に戻しすぎて、変哲も無い民家に成ってしまった例もある。

今回の放送は、秋田の民放のテレビ局が製作した、ローカル放送だが、番組の中味は、賞賛に値する内容だった。番組制作上打ち合わせや、話す内容まで、指示される事も多いのだが、視聴者の立場に立っても、違和感が無い素晴らしい内容だった。さすが、五万米さん、自身満々で送ってくれた事だけの事はある。秋田は県北以外、比較的全県に茅葺の民家が残る。是非、我々のルーツの地に足の着いた文化をこれからも継承していって欲しいと願うばかりだ。

私は茅葺き民家の愛好家だが、茅葺の民家を闇雲に残そうとか、守ろうとか書いているのでは毛頭無い。温故知新、ふるきを尋ねて新しきを知る。と言ったように、日本人の中に茅葺民家を受け入れるDNAが受け継がれているような気がしてならないのである。
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