桜の本箱

いわき市の遠野町に住む、大親友の頑固親父の米作りについて書いてみる。友人は今年54歳。父親が病に倒れてから本格的に稲作を始めるが、その父親は地元でも評判の米作りの達人だったらしい。何時もお前の親父は米作りの名人だったと周りに言われ、それがプレッシャーに成っていたのも事実だが、8年前に突然、有機発酵肥料による無農薬米作りをはじめた。

無農薬米。低農薬や減農薬米と言うあいまいな表現とは違い無農薬米は、害虫、雑草との戦いだ。肥料も米糠ベースの発酵肥料を地元の薄上秀男氏に師事し有機発酵肥料による完全無農薬米の耕作を始めたのである。

消毒も、籾殻燻炭を作る時に採取する木酢液をベースに酢、唐辛子、にんにく等の自然素材を配合した強力な匂いのする、消毒液なのである。私も数年前の夏、田の草引きの手伝いをしたが、稲株を締め付ける様に雑草が生えているのを、一株ずつ丁寧に取り除く作業は、辛い物だった。危うく熱中症になり掛けた位である。

当初、近所の人達も無農薬米?時代に逆らう様なことをしても、すぐに音を上げる!と笑っていたそうである。しかし、周辺の声は聞かないふりをして、5年を過ぎた頃には、周辺の目も変わってきたと言う。折りからの狂牛病、遺伝子組み換え大豆、食料の需給率の問題、食品添加物の問題やら、食の安全に対しての意識が高く成って来た近年は、彼の農業に対する考え方や姿勢に賛同し同志が集まり出した様である。

今年は4人の仲間達と反当たりの肥料の量を変えたり一人では時間の掛かるデータを共同で得ようとしている。通常、田植えは年1回、5回のデータを取るには5年かかるが、4人でデータを共有すれば、条件は多少違うが、おおよそのデータは、一回で取れる。俺が俺がの我を捨てれば、方向性も見えてくるものかも知れません。

実は山形県米沢市周辺にも米作りの名人が居る。ササニシキとコシヒカリを作付けしているが、ササニシキは1反当たり16俵960㌔以上を収穫している名人である。数年前、私も彼にお付き合いして、訪問したが一目見て、稲の葉の色が違い、株がVの形に立ち上がり素人目にもその稲の凄さには驚いた。今年は4人の有志達とその田んぼと御主人のお話を聞きに、7月始めに米沢に1泊で向かう事に成ったので、格安で料理の良い温泉を紹介して欲しいと電話があった。

何事も最初に取り組む時は、家庭内でも波風がたつ。無農薬米、反当り6俵〔360キロ〕だそうである。1俵〔60キロ〕3万で売って、反当り18万。手間や経費の事を考えれば、相当な信念が無ければ、とても出来ない仕事だ。しかし、その頑固親父のお陰で、我が家は、米糠発酵肥料による美味しい無農薬米コシヒカリを食べている。

知人の農家民泊でも、この無農薬米を食べて貰う計画も進行中だ。今年も、無農薬米の田植えが終わった様だ。今年は草引きの声が掛からない事を願うばかりだ〔笑〕今から秋の収穫祭が楽しみな夢想庵なのです。

食の安全。食料の需給率が40パーセントを切りつつあるこの時代、難しい問題である。
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