桜の本箱

私には、何人かの木工関係の仕事をしている、友人知人がいる。最近その知人の工房でのやり取りを書いてみよう。

人間にも木にも、適材適所と言うものがある。工房に入るなり、久し振りに大きな仕事が入ったよ!!総桜材の無垢材で2m×2mの収納付きの本箱の発注があった!解る人は解ってくれる。いわきにも本物を解る方達が育ってきた?と興奮気味に話していた。そして自分の作品作りの自慢話を始めた。自分は引き出しや裏板を杉や桐は使わないで全ての部材を何から何まで桜の無垢材を使っての仕事をする!と胸を張って私に話した。

私が受けた仕事では無いが、あえて友人だと思い、余計な事で貴方と激論や意見の違いを戦うつもりも毛頭無いがと前置きして、材料にも適材適所が有るのではないか?桜、楢、栗、欅の様な堅木は見える部分や鏡の部分に使われる主役です。引き出しの箱や裏板にはいくら乾燥した材料でも薄く挽いた材料は湿度や気温の変化で反りや狂いが出易い。狂いの出易い裏板や、引き出しは、桐や杉を使うのが適材適所だと思うし、それが桜と言う稀少材を有効に使うと言う事では無いか?そしてそれらをお客に丁寧に説明してやるのもプロの責任ではないか?と話した。

彼は顔を真っ赤にして、全て桜材の無垢で作ることがステータスだと馬鹿な事を言い出した。私は遠慮しながら、堅木が良いからと全部自宅を欅で作ったら、人が住み居心地の良い家が出来るだろうか?山の木が全て針葉樹だったら、紅葉は無い。栗の木は硬いし防腐効果にも優れているが狂いが出やすい。だから土台に使い柱を立て上材を組み上げる。そうすると栗の木は上材の重みで大人しく自分の役目を果たす。これが適材適所なのである。しかし糠に帰った古木の栗は黄色味が出てきて整板しても大人しいし扱いやすい。欅もそうである。

堅木は使い方を間違えると家をも曲げてしまうのである。本箱と言えども裏板なんか狂い出したら、釘なんか簡単に浮かされてしまう。天然木は勿論収縮する関係上、裏板に接着剤等は使えない。リスクと信用を損ないかねないから、安全確実な仕事をするべきでは?とやんわり話したが、聞き入れて貰えなかった。他人事だが貴方はまだ木を読むことが出来ないと思いますよ~!独学で師匠に師事しない作家は、発想は奇想天外だが、基礎を知らないで仕事をすると、痛い目に逢うと思うが?

私の様な素人仕事ならいざ知らず、100万以上のお金が動くのだから、材料の個性を充分に引き出した仕事をして欲しい。主役をはれる木、脇役に徹する木、どちらも大切だと思うが、全部が主役なら喧嘩になる。メリハリが無くなる。建築材としての桜材は本来、敷居やカマチに使う木なんですよ。引き戸などに引かれても適当に油分があり堅い事がそれらの部材として使われる由縁なのです。

桜無垢材の本箱。一ヶ月後の完成品より3年後のその本箱を見てみたい。堅木を舐めると、やがて痛い目に逢いますよ。だからあの時言ったでしょう!何て言う事の無い事を本当に願っています。

今年80歳になる指物師に習いに行くなら紹介すると言ったでしょう?職人の世界は基礎が大切なのです。料理も修業をしないで、成功した人は皆無です。しかし、たま~に居るんです。私は修行しないで独学でここまで来ました。と言う方が・・・・その方は天才と言われる方の事です。私の様な凡人は、多くの作品や人との出逢いから影響を受けてこれまでやってきました。勢いだけでもやっていけないし、臆病になっても前に出れない世界ですね。

本当に堅木を扱うなら、指物師の木組みを勉強しないと、見えない所に使ったタッピングビスなんかは、簡単に折られてしまうのです。数百年前の古材の欅も挽き直すと動き出す。そのままにしておけば、眠って居るのだが、手を加えたり、違う用途に使おうとすると、永久の眠りから目を覚ますのである。
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